Look at me
好きだって言った。
はじめ、驚いたような顔をして。
それでもアスランは、最後にははにかんだように笑み、シンに頷いてくれた。
キスもした。
触れるだけのキスなのに、ひどく、照れた様子が可愛かった。
どうやら、もの凄くオクテらしいこの人との恋は、とてもゆっくりで。
でも、それさえも楽しかった。
ときどき、わけのわからないことも言うけれど。
それでも、シンの怒りや苛立ちに、いつも真面目に応えてくれるから。
話してくれないことも多いけど。
それも、言葉が足りていないせいだと、わかってきたから。
だから、付き合っていられた。
どうにもチクハグだけれど、あの人はちゃんとシンを見ていて。
シンも、その人を見るのを止めなかったから。
それが、崩れた。
「あんたの言う正しさが、すべてじゃないってことですよ」
シンの言葉に、なんとも言えない顔をしたその人は、結局何も言わなかった。
それじゃダメだ。ダメなんだと、何度言われたことだろう。
でもなんだか、前とは違う。
いつだって、どこかかみ合わない俺たちだったけれど。
今は、かみ合っていないんじゃなくて。
その人の顔が見たくなって、振り返った。
しかし、アスランはもうシンを見ていなくて。
どこか遠くを見て。
「キラ・・・」
シンの知らない名前を、呟いていた。
あれだけのことを言った後で、顔を合わせるのが気まずくなかったわけじゃない。
それでも、多少気まずくても自分が会いに行かないと、そのまま終わりかねないことを、シンはもう知っている。
自分からは、決して動かないアスラン。
ずるいと、思う。
それでも、アスランの部屋へ押し込んで、電気もつけずにベッドに座り込み、落ち込んでいる人の、隣に座る。
じっと膝を見たまま、シンを見ないアスラン。
彼が今、見ているものは。
「キラって、誰ですか」
だいたい想像はついている。
あの、白いＭＳ。
戦場を混乱させ、セイバーを落とした、フリーダム。
あれに乗っているのが、たぶん。
「幼馴染だ」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「・・・・・・」
そう、確かにこの人は、こうも簡単に嘘をつける人じゃなかった。
「子供の頃、ずっと一緒で。一度離れて、再会したら敵だったけれど。それでも、わかり合えた。そう思って、いた・・・」
つらそうに語られた、そいつは。
「フリーダムってのに、乗ってたヤツですか」
「ああ」
「ぜんぜん、わかり合えてなんかないってカンジでしたけど」
「ああ。・・・いや、でも」
『でも』と。アスランは繰り返した。
しかし、その後の言葉は出てこない。
シンはかっとなった。
あんなことされて、まだ、そいつをかばおうと、今必死にまわらないアタマをめぐらせているだろう、傍らの恋人に。
どうしようもなく、腹が立った。
「でも？なんですか。でもイイヤツなんだとか、でも優しいヤツなんだとか？ああ、あんたのことだ、でも俺も悪いからとか？」
言葉に出来なかったことを、シンにぶちまけられ、アスランはとっさに顔を上げた。
目が合った、赤い瞳。
そこに燃える炎に、思わず竦む。
「でも、好きだから、とか？」
知らずこぼれた言葉に、口にしたシンさえも、絶句した。
「シン！」
早く立ち直ったのは、アスランの方だった。
「どうしてお前はそうなんだ」
「どうしてって、あんたここんとこ、ずっとヤツのことばっか考えてたでしょう！」
そうだ。思い返してみれば、あの白いＭＳが現れてから、アスランはずっとヘンだった。
遠くばかり見ていて、覇気がなくて。だから、シンはステラのことだって、相談できず仕舞いだった。
「そ、れと、これとは・・・」
「違うってのかよ」
揺れる瞳に、いっそうムカつく。
感情のままに、肩を掴んで、引きずり倒した。
随分薄くなった肩。そういえば、最近この人が食事をしているところを見ていない。
食堂で、ぼんやりしているところは、よく見かけるけれど。
この人は、食べ物が喉を通らないほど、ヤツのことを想っている。
そう思うと、目の前が真っ赤になった。
「俺を、見ろよ」
震えて見上げる、翠の瞳。
この目に、自分以外の何者をも映したくはない。
「俺だけ、見てろよ」
声がひび割れて、醜く歪む。
押さえつけた肩の薄さ。そこから伝わるかすかな震え。
「シン」
その声さえ、震えて。
「俺は・・・」
聞きたくなかった。
だから、唇でふさいだ。
「んんっ・・・」
今までにしたなかで、一番深いキス。
好きなだけ、あたたかな口腔を貪って、逃げる舌を絡め取る。
どっと溢れた唾液が、甘い。
「シ、ン・・・」
離れた唇が、呼ぶ名前。
そう、あんたは、俺の名前だけ、読んでいればいい。
俺だけ見てればいい。
俺のもので、いればいい。
シンは、アスランの軍服に手をかけた。
「っ、やめ・・・・っ」
「なんで」
抵抗するために上げられた腕を取り、手首の内側、浮いた血管にキスをした。
震える指先が、愛しい。
人の急所は、そのまま性感帯なのだと、聞いたことがある。
その奥に脈打つ動脈を思い、軽く、歯を立てた。
「あんた、俺の恋人だろう？・・・・それとも」
するり、と、喉に手をかけた。ここも、急所。
「アイツになら、犯らせるのか？」
「違うっ！」
激しく振られた首を、押さえつける。
ぐうっと詰まった苦しげな声。ぞくぞくする。
「なら、いいじゃないですか」
シンが指に力を込めれば、この首はたやすく折れるだろう。
そう、今、シンはこの人を支配している。
アスランを、支配している。
それでも、まだ、足りないから。
押さえつけた耳元へ唇を寄せ、囁いた。
「セックス、しましょうよ」
「っ、あ・・・・くっ」
「ガマンしなくでいいですよ。もうイきたいんでしょう？」
裸にされて、膝を割られて。それでも、アスランは抵抗らしい抵抗もしなかった。
下着を取るときに、小さく息を飲んでそむけられた横顔。
その羞恥の表情が、たまらなかった。
もっと、こんな顔見たい。
そんな思いが、シンを残酷にしてゆく。
胸の先端は、思ったよりも敏感で、歯を立てただけで体中が揺れた。
それを舐めながら下肢を弄ってやれば、あっという間に上り詰めた。
「っ！」
「早いですね」
嘲笑って、手のひらを汚した白いものを舐めてみる。
苦くて、甘い。
ぽた、と、指から胸にそれが落ちて、しこったままの胸先と共に、淫靡な色香をかもし出す。
「アスランさん、すっげーヤらしい」
落ちた液に這わせた舌が、胸の鼓動を感じ取った。
ここも、急所。
その真上にも、赤い痕を残した。
アスランは、ただ、震えている。
彼のことだ、本気で抵抗すれば、シンに犯られるようなことはないだろう。
しかし今、こうして、シンの下で大人しく、犯されるのを待っている。
その事実が、体を熱くした。
初めて味わう肌。甘い。
わずかな反応さえ、愛おしい。
こんなにも大好きなひと。自分だけを見て欲しい。
他のヤツなんか、見ないで欲しい。
だから。
早く、俺だけのものにしなくちゃ。
シンの手は、性急にアスランの下肢を割っていた。
受け入れるのは、初めてだろうその場所は、硬くシンを拒んでいる。
それでも無理やり指を差し込むと、つらそうな声が、上がった。
「やっ・・・ああっ」
それでも、アスランは抵抗もせず。
ただ、シーツを掴んでいた腕が上がって、シンの肩を、掴んだ。
「シ、ン・・・」
羞恥と熱に、体中を赤く染めて。
苦しげにかすれた声で、シンの名を、呼ぶ人。
「力、抜いてて下さい。でないと怪我しますよ」
ぐいぐいと、容赦なく指を増やしながら、その熱さを味わう。
早く、ここに突っ込みたい。
早く、この人と繋がりたい。
「ああ、濡らさないとダメなんだっけ。ココ、舐めてあげましょうか」
羞恥心の強いアスランに、それが耐えられないことは知っている。
「や・・・め・・・・」
あまりの言葉に身を震わせるアスランに、シンは口元を歪めた。
「へえ、濡らさなくていいんですね。もしかして、アスランさんって痛いのが好き？」
アスランはもう、声も出ない。
シンは、白い脚を掴み、強張ったそれを、大きく割り広げた。
取らされた姿勢の恥ずかしさに、翠の瞳から、涙がこぼれる。
「じゃあ、もっと痛くしてあげます」
「や、シンっ・・・・」
苛んでいたそこから指を引き抜き、自分の軍服のベルトを外す。
取り出したソレは、すっかり硬くなり、恋人との繋がりを求めて昂ぶっていた。
開かせた脚の間、そこに押し当てただけで、背筋を快感が駆け上る。
でも、この中はきっと、もっと気持ちいい。
「・・・・・・！」
悲鳴は、声にもならなかった。
予想通り、裂けてしまったそこからは、赤い血が滴り落ちる。
その滑りを借りて、奥まで突き込む。
「ひっ・・・やっ・・・・」
肩を掴んだ指に、きつい力がこもった。
しかし、それは拒絶の力ではなくて。
きつくきつく、痛いほどの力で、掴まえて。
引き寄せる。
「アスランさん・・・」
きゅうっと抱き込むと、ひくりと体がわなないた。
痛い、のだろう。
それでもシンにしがみ付くアスランが、かわいそうになってくる。
でも。
それでも。
「アスランさん、俺を、見て」
他のヤツなんか、見ないで。
汗に張り付いた前髪を払って。
つらさにきつく閉じられた、瞼に口付けて。
「俺のこと、見て」
ひくりと震えたそれが、おずおずと開かれて。
綺麗な、翠色の瞳が、あらわになる。
それは、ちゃんとシンを見ていて。
見ていて、ほろほろと涙を落とした。
「シン・・・」
両手で、しがみ付かれて。
髪に、涙に濡れた頬を擦り付けられる。
それから、小さな嗚咽が聞こえて。
シンは、その背をそっと抱いた。
「シ、ン。シンっ・・・・」
しがみ付く腕に、込められる力。あえかな泣き声、呼ばれる名。
それに、快感を覚える自分を、残酷だと思う。
今、確かにアスランはシンを見ている。
シンを、求めている。
無意識に。
まったくの無意識に。
シンの助けを、求めている。
「アスラン、さん・・・」
髪を掴んで引き剥がし、ちいさく悲鳴を上げた唇を貪った。
それを受け入れる舌は、甘く。
シンに、従順に従った。
「大丈夫、俺がいますから」
そう囁いて、身を起こす。
繋がった場所が、びくりと震える。
「痛いですか？」
アスランは、首を横に振った。
痛くないわけないだろうに。
そんな様子が、愛しくて。・・・かわいそうで。
そして、ひどく、シンの欲を煽った。
「うん。じゃあ、俺にしがみ付いてて下さい」
素直に、背に回った腕に力がこもる。
「俺を見てて下さい。そうすれば」
そうすれば、俺が。
「忘れさせて、あげますよ・・・・」
幼馴染に、撃たれたことも。
何も出来ない無力感も。
あなたを悩ませている、俺の知らないことも、全部。
忘れさせてあげる。
翠の瞳が見開かれ。
それから、きゅうっと細められた。
それから。
こくりと。
まるで、子供のように頷くひと。
なんて、愛おしい。
髪を梳いて、口付ける。
優しく、名前を呼んでやる。
ゆっくりと腰を揺すると、はじめは苦しげな声が上がったけれど。
やがて、それは甘くとろけて。
大丈夫、大丈夫。
俺がいてあげるから。
俺が、守ってあげるから。
だから、俺を見て。
俺だけを見て。
お願い。